flies for boo

バンブーロッドでスティールヘッドを釣ることを「あきらめ」にせず「余興」にしないために、細部にも考察を重ねた。フライを考え直したのはその一つになる。

ドライラインでグリースラインテクニックを志向し、そこにローウォータスタイルのクラシックなフライを結ぶことは、バンブーロッドをイメージするときの筆頭にあるし、もちろん、ドライフライによる至高のスティールヘッド・フィッシングも目指したい。けれど実績ベースの現実もよくよく考えておかなければスペイフィッシングからのギャップばかり大きくなってしまって、先に書いた「あきらめ」や「余興」になりかねない。そうするつもりはなかった。

Edwards Quadrate Bamboo Rod Steelhead スティールヘッド バンブーロッド

ここ数年、フックに関して貫通力が取り上げられる記事やコメントを目にしている。以前はサーモン・スティールヘッドのフックには強度ばかりがフォーカスされていたように思うけれど、テクノロジーがそれを解決し、最近はもっぱら細く鋭い鋼材で作られたフックが実践用とされる。

また、スティールヘッドではバラシが掛けた魚の約半分近くに起こることを何とかミニマイズしようと、物理学の基本から考えて、よりレバレッジの小さいショートシャンクのフックが脚光を浴びている。

鋭い鋼材で貫通力を比べ物にならないものにし、ショートシャンクによるフッキング後の保持力を高める。この2つを見事に生かしているのが有名なスティールヘッドパターン、イントルーダーである。しかもこのフライはフックだけの交換さえ可能にし、甘くなった針先を研ぐのではなく、フックそのものを新しいものに変えてしまおうという仕組みまで搭載している。スゴイの一言。

自分お気に入りのフライ、“魔弾”に、このショートシャンク&レーザーシャープのフックを載せることができないか検討を重ねた。その間ジョック・スコット著「Greased Line Fishing for Salmon」及びアート・リー著「Tying and Fishing Riffling Hitch」を手に入れ、小型のフライに魚が水面まで誘い出されるイメージを脳に植えつけつつ、小型フライのデザインに関するインスピレーションを取り込まんと、それぞれ数回複読した。

読後、フライの漂い具合、スウィングのスピードコントロールが重要なことはどうやら共通した見解のようだと分かったけれど、複読をさらに進めていくと、次第にフライの記述にウンチクを見出しはじめた。

フックにちょっと毛がついてさえいればいいと言うのか。フックだけでもいいのではないかと考え直すほど、フライそのものに動きが必要ないのかと考え直すほど、小さくまとまった#4-#10のフライが効果的だと書かれている。そこまで割り切らなかったけれど、魚が誘いにノッてきたとき、そのフライは小さいほど捕らえるに至る確立が高いということは両者の本に共通している。

このことが間違いなさそうだと確信したのは、バンブーロッドをスティールヘッドの釣りに思考して2年後、実は我が家の猫の玩具に対する反応の変化に気が付いてからである。

 

 

猫の銀は、近所の早淵川の橋のたもとで若くして拾われてきた。おそらくその頃、生後約半年だったのではないかと思われる。初めの数週間は野良猫ゆえの警戒心が見られたけれど、次第にその人懐っさ、遊び好きの性格が現れて、あらゆる動くものに反応した。

一緒に暮らし始めた最初の3年、銀とは大いに遊んだ。時に遊ばない日が続くと、自分で鼠の玩具やアルミホイルの玉を何処からか捜し出してきて私の前に置く。可愛らしいったらない。

戸建てに引っ越してからは外に出て遊ぶようになり、若いうちに跳躍と走力の鍛錬を重ねた成果を近所の鳥獣虫魚に向けて発揮するようになった。さすがに狸には度肝を抜かれたようだけれど、各種鳥、ネズミ、モグラ、セミ、バッタ、カマキリ。小さい昆虫類は襲ってそのまま食べてしまっていると想像する。

 

ある日、ソースのボトル大のボディを持つ大型の鼠を喉を締め上げて咥えて帰ってきた。その鼠が家の中で放たれて、気が狂ったように走り回り、銀、私、ワイフの三名で家の中を追いかけ回る事件まで起こしてくれた。

そんな銀も5歳になり、あるとき気が向いて、たまには家の中で遊ぼうと、ロッドのティップにフライラインの切れ端をつなぎ、かつて遊んでいたネズミの模型やアルミホイルの玉、あまったラビットストリップなどを結んで、リビングでそれらの操作を試みた。

初めは瞳孔が黒く大きくなり、キョロキョロと獲物を襲う体勢に入るのだけれど、どうも以前のようには誘われてこない。かつて曲芸師のごとくそれらを操作して猫を飛び上がらせることができた「猫使い」としてははなはだ面白くない。

ネズミの模型、まったく反応なし。アルミホイル、追うけれど、コンタクトに至らず。けれどラビットファーには疾走して襲い掛かり、空中に舞ったそれに久しぶりに身を翻して飛びかかってきた。それでもほんの数投でそれに慣れて飽きてしまった様子。何度も繰り返して先ほどの跳躍を見せよと、かつての操作を試みるのだけれど、猫は静かになって、絨毯の上に伸びてしまった。

そこで何を思ったか、アピールを良くするために結んでいた大型のラビットファーをはずし、それを半分の大きさにカットして、フライで言えば#4くらいにして再び銀の目の前を通過させると、銀は目の色を変えて突撃し、追いかけて走り回り、襲い掛かって宙を舞い、空中で捕らえて着地して、なお毛を放さないのである。口から引き剥がしてやろうとロッドをしならせてファイトを開始するのだけれど、ラビットファーにはフックが付いていないというのに、口がめくれあがって歯茎が見えるほどに張っても一向に放そうとしない。それどころかそのままジリジリと移動してリビングのストラクチャー(椅子)に向かって隠れようとし、6/7番のグラファイトロッドをここまで曲げるとちょっと怖いと思うくらい竿を絞り込んでも、銀は毛を放さないのである。

無理やり手でラインを引っ張って口から剥がしたところ、再びそれに向かって猛烈に奪取。そして口から放そうとしないのである。そんなことがその日10回くらいあり、しばらくはこの小型化によって猫使いとしての自信を取り戻しつつ、ひょっとしたらこれは、とひらめいたのである。

 

ラビットファーを小さくした突然の試みは今まで読み込んだ「Greased Line Fishing for Salmon」と「Tying and Fishing Riffling Hitch」の知識が脳の中で科学反応を起こし、ロジカルに考えて行ったのではなく、なぜかそうしてみた、としか言いようがない。

毛を小さくすると、猫は再びスウィッチが入ったように活動的に反応し、そして針が付いていないのにガッチリ咥えて放そうともせず、数分間はロッドでファイトすることになってしまった。

どうやらここにフライを小さくすることの意味がありそうである。以前伝え聞いた、ハリー・レミアがフックをベントでカットしてフライをテストし、そのフライに掛かったスティールヘッドが跳躍を繰り返したというのは、単に伝説ではなく、どうやら本当のことのようである。

 

しかし、現実はそう甘くない。2012年バンブーロッドで楽しんだことは間違いないのだけれど、魚に針をはずされることは依然高い確率で起こっている。ウィルソンドライで100%、ティムコ7989で70%、がまかつオクトパスで50%。全て逃げられた割合である。落胆、失望、無念、そして探求は続きます。