スキーナ フライフィッシング
確か以前、デックホーガンの本を読んでいる時に、デビル、もしくはデーモン、あるいはビーストと呼んでいたと思いますが、とてつもないスティールヘッドについての話が書かれていました。そのファイトはまさに狂気の沙汰のようで、もう成す術がないような、やられっぱなしの状態のようです。同じくハリーレミアの記事でも狂ったようなファイトをしてきたのがいたという話があり、それはもうリールが壊れそうなくらい、有無を言わさないような、縦横無尽の走りで、いったいどこまで行ってしまうのかというくらい、止まらない、止められないファイトであると。そのほとんどは姿を見ることがまずなく、謎と妄想が釣師のアレになっていくわけですが(つまりどんどん大きな魚の話になるということ)、ハリーレミアの話の中で、そんな魚が下流で釣っていた仲間のすぐそばで外れ、針から逃れた魚が休んでいるのを水中に確認できたことがあったらしいのですが、それはHoly Shit!と叫びたくなるくらい小さく、12lbくらいの魚だったとのことでした。
実は二度、私もビーストとも呼びたくなる経験をしています。デックホーガンのいうような、ハリーレミアが語ったような、そんな魚でした。
  
2010年だったと思います。マイザーのスペイロッドに執心だった頃、慣れ始めて快調にキャストを繰り出していた時に、その魚は掛かりました。まさに有無を言わさない走りで、ラインはどんどん出て行くし、ちょっとした恐怖です。斜め下流に伸びていたのに、なぜか岸からかなり離れた上流の方でドバンと大きなオスのスティールヘッドが飛び出て、一生懸命ラインを回収したのですがその飛び出したあたりでテンションがかかったまま全く動きません。生命反応も感じない。しばらくそのままにしてみたのですが、あまりにも遠く、水圧がかかってギュンギュン糸が鳴るし、怖くなって諦めました。竿をまっすぐにして後ろに下がり、最後はラインがティップのところで切れていました。どうやら上流に向かって走った際にラインが石の下に噛んでしまったようです。もの凄いブレーキがかかって魚は飛び出したんだろうと思います。
  
2度目はバンブーロッドでドライフライで釣っている時でした。渦を巻いて飲み込まれたフライを確認し、手元のコイルを放して十分なフッキングができた時、この魚もまた狂ったように、怒りを伴ったように下流に向かって走り、スキーナの広大な速い瀬の中に突っ込んで行きました。瀬の中でもがき、そして水面から飛び上がり、フックが弾かれないようにラインを放すとそのスキに再び猛疾走。その後川の中央、岸から遠く離れた速い瀬のど真ん中に居座ってしまいました。長く出たラインに速い流れが激しくあたり、抵抗するラインはギュンギュン唸ります。そんな状態ですから魚が付いているのであればこの抵抗だけで負けて疲れてしまいそうなものです。しかしピタリと、全く動かない。もはや生命の鼓動も感じない。以前のように走られすぎて、下流から上流にU時に動いたせいでラインが石に噛んでしまったようでした。せっかくバンブーロッドで、しかもドライフライで掛けた魚ですから惜しくて惜しくて、しばらくそのまま、数分ですが、粘ったのです。けれど一向に生命の気配を感じられず、ついに諦めて竿を倒し、フライラインを握って川岸に上がって後ろに下がってゆきました。水の抵抗が恐ろしく激しいなか、ラインを切らんとグイグイと引いていたら、なんと魚がまだ付いていたのです。根掛かりの回収のごとく引っ張って、ようやく動きはじめるなんて。一体どうして根掛かりのように動かずにいられたのか。ラインが水の圧力で唸りを上げるほどの、釣り人が竿を保持するのが大変なほどの抵抗があったはずなのに、数分間も根がかり同様に瀬の中に居座ることができる体力とはどんなものなのか。その後も激しく抵抗した魚は取り込めたということではビーストではなかったと言われても仕方がないのですが、見事な34インチのオスでした。
スティールヘッド Steelhead スウィートグラス バンブーロッド Bamboo Rod Sweetgrass
大型のオスの特徴かもしれませんが、こうして動かないでドッシリ居座ることがあるようです。以前キスピオクスのマウスのあたりでかけた魚はバビーン行きかサスタット行きの魚だと思いますが、フライを流してピタッと止まったと思って合わせても何も動かず、根がかりかと思って相当の力を込めてスペイ竿をバシバシと強く煽ったり引いたりして、しばらくそうしてたら突然走り出して下流の瀬を一気に下って走って追いかけた、というのがいました。これは36インチ、太った20lbクラスでした。
 
こうした予想を超えるスティールヘッドに遭遇することが稀にありました。滅多に経験できずとも数度こういう輩を経験すると覚悟や工夫を凝らすようになり、ベストを尽くしてダメだったなら諦めがつくというもの。そして逃がした魚はその後大きくなるばかり。。。