スティールヘッドのフライフィッシングではキャスティングである程度ラインが伸ばせると魚に会う確率はぐっと上がってくる。まずほとんどの釣りの時間はサーチになるし、千回のキャスティングで1匹(アトランティックサーモンの釣り人からは1万回のキャストで1匹とも聞く)という言葉もあるくらい、そんなに掛かってくれないのが常だから、10メートルのキャスティングより15メートルのキャスティングでカバレッジが大きくなる方がもちろんいい。だからフライフィッシングをもっとも表現するこの技術をリズム良く達成できるロッドが欲しくなる。そしてもう一つ。ドリフトしている時間はトラウトフィッシングよりとても長い時間になると思う。何気ないけれどこれは顕著な違いの一つで、竿とリールのバランスが大切になる。
3年間の想像研究とバーチャル世界の情報、そこに3回の実際の旅の経験を合わせて紡いで、スキーナカントリーでのスティールヘッド用バンブーロッドについて、幾つか繰り返しも含めてここで記してみます。
シングルハンドでサーモンフライや大型(#4)のドライフライをストレス少なくキャストしようと思うと8番くらいのラインが欲しくなる。そうすると市場に出回る竿は9フィートが標準の長さで、これがバンブーロッドだとかなり重いものになり、自分はやせ我慢でもしない限り1日使えないし、使えても翌日以降はかなり辛いものになってくる。
丸一日、一週間、リズム良く使い続けられなければ楽しくないし、そのために軽く、あるいは竿の振り心地が軽いことが重要だった。そのために繋ぎが少ない2ピース、ブランク自体を軽くするホロービルドが考えられるけれど、今は振り心地に決定的な違いをもたらすのは竿の長さという単純な結論に行き着いている。ショートロッドであることの方が疲れにくく、リズム良く釣りができる。長いロッドがもたらすライン操作の優位や飛距離の有利がカタログ上には有るけれど、8フィートの竿でも水を選び、投げる角度に注意を払えばグリースラインテクニックは楽しめるし、20mくらいのキャスティングはこなせるようになってくる。だから9フィートのウィンストンよりも8フィートのエドワーズのほうが気持ち良く、実際使い続けることができた。
また、通期で軽快感をもたらすためにリールによってバランスをとることも考えてみた。リールを取り付けてグリップ近くにバランスの重心がくるようにするという、かつてのフライフィッシング入門本に出ていたあれが実際違いをもたらしてくれる。エドワーズはハーディのゼニスでそのバランスが完璧だった。これは5インチのエクステンションハンドルの助けもあると思う。ウィンストンでそのバランスを取ろうとすると、フィンノア#2が必要になる。
スティールヘッドの釣りでは毛針を流している、泳がせている時間が本当に長い。竿を振り上げている時間はトラウトの釣りよりも短いかもしれないけれど、フライを流して竿を握っている時間はかなりのもの。そこでリールが軽くて穂先がお辞儀するようなバランスだと最中握力が要求され、知らず知らずいつも竿をシッカリ握ってしまう。ここからくる疲労はけっこうなもの。だからバランスが重要なのだと言い切りたい。のだけれど、そうすると竿によっては逆転音のないリールを使うか、バンブーロッドに似つかわしくない海用の頑強極まりないデザインを選ばなければいけないか、あるいはバンブー全盛時の、スティールヘッドには若干性能に不安を感じる昔のリールを探すことになってしまうし・・・熟考が楽しいところです。
投げる行為は両手で扱うスペイロッドが片手で扱うシングルハンドのフライロッドよりも疲労が少ないと知られているけれど、ドリフトに関しても無駄に疲れないように扱える特性があった。下手側のハンドル。これがアームレスト?として、長い集中したドリフトに貢献していると思う。
使っているエドワーズには5インチのエクステンションバットが着く。やっぱりこれがちょっとしたアームレストとして効いていることを実際の釣り3日目に感じ始めた。2012年の旅で一回だけウィンストンを持ち出してみたところ、2、3時間で疲れを感じ、仕舞ってしまっている。1フィートプラスの全長にはまったく違ったリズムが必要で、その適応にもたついた感もあるけれど、それ以上に腕の下に支えがないために、ドリフトの最中、竿を必至に握っている自分に気が付いた。これでは疲れないワケがない。リールとのバランスが悪ければなおさら、である。
エドワーズでの釣りはスペイロッドでの釣りの効果と同じように、このエクステンションハンドルが支えになり、期待を紡ぐドリフトの時間に竿は握ると言うよりは軽く指を掛けている感じで過ごせた。
エクステンション効果をもう一つ。とても変則であまり望ましい感じではないとはいえ、これで両手投げを行うこともできるということ。風の日、ちょっと助けになる。あるいはどうにも疲れてしまったとき、何とか遊べる。無いよりはあっていい。
バンブーロッドのなかに自然があり、釣師の遺伝子の奥深くがそれを求めるのは、必然なのかもしれない。フライフィッシングをライフワークに続けれる限り、バンブーロッドはいつかは求められるものなのかもしれない。そして、いったん使って得た充実からは逃れられないのかもしれない。
竹という自然の素材は釣り人の精神を良く表わす。精神状態が良い日も悪い日も、グラファイトの、ことにスペイロッドとなると、STEELHEADINGのカギとなる要素を何とか達成してしまうかもしれないけれど、バンブーロッドにはそれはできない。その辺をよくよく考えたうえで、バンブーロッドで釣りをする日に恵まれ、幸運にも魚を釣ることができたなら、その釣り人は間違いなく幸せになれるのじゃないだろうか。