2015年。ついにバンブーロッドのみを携えてカナダに出かけました。もう戻れない。そんな感じです。
昨年、一昨年と使ったエドワーズのクアッドのみで行くのは不安なので、もう1本を考えました。それはもちろん、エモーショナルに選んだものです。
カスタムオーダーでスティールヘッド用の竹竿を作ってもらうことは今後はないと思います。そんなお願いをするのだから、当代随一と呼ばれる一人であり、しかもウェストコーストの、スティールヘッドを知る一人に頼んでみたかったのです。以前修理でもお世話になり、支払いも済んでいないのに届けてくれたその好意に感嘆しないではいられない、Sweetgrassのブーボーイズ&グレン・ブラケットにお願いすることにしました。
グレンには欲しいスペック、使う川、ラインやフライのセットアップなど、いろいろ率直に話してみました。
スウィートグラス・ロッドのアイコンとも言えるバンブー製ワインディングチェックはやめて、ニッケルシルバー製にしてほしい。
グレンは「リールが心臓に近くなってバランスが良い」と言うダウンロッキングを勧めましたが、自分は握る手に近い方が好きだからアップロックでお願いしたい。
スティールヘッドで使うから、5インチのエクステンションバットをお願いしたところ、それはいいアイデアだね、と。
スウィートグラスでは、コンフィグレーションもクアッド、ペンタ、ヘックスから選べますが、ここは慎重になりました。見た目以外は関係ないという巷の話もあるけれど、どうしても何がしかの性能の違いが反映されそうな部分に思えたのです。
グレンに、昨年エドワーズ・クアッドのバットセクションがスティールヘッドと格闘中に折れたことを伝えると、「クアッドはどういうワケかそうなることがある。ビッグロッドのバンブーではペンタかヘックスが安定していると思う」と。
グレンが生涯に製作・修理してきた数はいったいどれくらいなのでしょうか?想像するのが難しいくらいに経験を積み重ねた人物が、「証明はできないけれど感覚としてそう感じる」ことは真に入っている気がしました。このアドバイスに従い、エキゾチックな四角や五角よりも実質で六角を選びました。使い切ることができる、スティールヘッドを楽しむ道具が必要だったのです。
そして最後に、一番肝心なところ。一番気にしているところ。竿の長さです。
私:ショートロッドでお願いしたいのですが。8フィート以下の。7フィート半はどうでしょうか?
グレン:8'6"がいいと思う。
私:ちょっと待ってください。8フィート以上は無理なんです。
グレン:では8フィート3インチがいいんじゃないかな?
私:お勧めありがとうございます、でも本当は7フィート半にチャレンジしたいくらいなのです。最長で8フィートで考えているんです。
グレン:ボーンフィッシュ用のテーパーで8フィートがある。現在もテスト中。それでどう?
私:それにします、お願いします。
グレン:わかった。テストを随時確認しているから、また連絡するよ。納期はXXで。
しばらくして、順調だよ、8フィートのテーパーはボーンでいまだテスト中、とくる。納期が迫って、どうですか?と訊くと、テーパーは決まった、製作は順調、リールは何を使う?ハーディーのゼニスです。了解した。
納期は2ヶ月過ぎたけれど、その間の親切なやり取りのおかげで不安を感じませんでした。支払いの話やデポジットの話も一切してこない。ある日、できたから送るよと、いきなり言ってくる。ちょっと待って、お支払いすぐにしますよ!
支払いを済ませるや、すぐにロッドは手元に届きました。
そして筒の中からは願っていたものが滑り出てきました。
この年、この竹竿と出掛けてゆく旅は、今までとはちょっと違いました。竹竿を携えていると、急ぐ気持ちは随分なくなった気がします。あわてても仕方がない、とてもとても割り切った釣りの感覚が、始めから終わりまであったような気がします。これは歳のせいでもあるでしょう。この釣りを始めて20年(2015年現在)ということもあるでしょう。けれど竹竿のせいもやっぱりあるように思うのです。
水辺で取り出したのはもちろん、Sweetgrassの竿でした。一日目を使い終えて、この竿でいい、これで何も困らない、と思いました。使うリールを尋ねたうえで取ったバランスかはわかりませんが、この竿はバランスがとても良く、昨年使った同じ長さのエドワーズ・クアッドとは比較にならないくらい、自分の体と感性に合った使用感です。つまり、終日使って、より疲れにくいのです。
ホロービルドのブランク、5インチのエクステンションバット、8フィートのテーパーなどの実質の中に製作者の気が込められている。そんなことまで考えてみたくなります。そしてバンブーロッドは時々”インストゥルメント”と呼ばれ、つまり楽器のようなものに例えられることがありますが、今回届いた竿もその一つと言いたくなります。実用を超えた感触というやつです。
この旅は、自然にこの竿と水辺で過すことになりました。手にも肩にも、以前感じた疲れは残りませんでした。沈めるラインを使おうとドライフライを使おうと、関係ありませんでした。無理のない範囲で無理のない繋がりをもたらしてくれているようでした。それはこの竹竿が釣りの時間に調和を生み出しているからなのかもしれません。
そんなバンブーロッドで、実際いくつかのスティールヘッドを手にすることができました。そのうちの一つはドライフライに出た34インチのオスで、この魚とは滅多にできない押し引きを経験することになりました。20分くらいかかったと思います。ここではその様子を詳しく説明することはしませんが、この竿を通じて伝わってきた、漲る生命の感触はちょっと忘れられないものになっています。