今まで読んだ本の中に度々出てきたポールヤングのパラボリックアクションはいつかじっくり体感したいと思っていました。若い頃にぺゾンのコロラドを振った時、その独特な感触が忘れられず「いつかはパラボリック」が頭の隅に残り続けていたのです。（ぺゾンとヤングはどう違うかは私はわからないのですが、パラボリックという同一ジャンル内と思って、ヤングの竿への憧れが膨らみます。間違えていたらすみません。。。)

幾つかの本や雑誌で描かれるヤングの人柄というかキャラクターというかに興味を持ち、その人物が創り出した革新的なテーパー、ユニークなアクションは多くの人が語るところですが、それを体験したくて仕方ないまでになってきました。本当は本物のヤング竿を手に入れて使いたいところですが、私にはアフォーダブルとは言えず、ある日修理でお世話になった際にバンブーロッドブラザーズの吉田さんにパラボリックアクションのことやペゾン、ヤングの竿がどんなものだか話を聞いているうちに、ついつい言ってしまいました。

「それって作っていただけるものなのでしょうか？」

「できますよ」

「ホントですか？」

「知り合いが持っているのを借りてそのテーパーでやることは可能です」

「ではぜひお願いします！」

ということでオーダーに至り、ショートロッドを使うことに目覚めてしまって以来、日本で使う渓流竿は6フィート付近をウロつくようになっているのでヤングのミッジをお願いしました。グリップ周りの雰囲気やスレッドの色など、ヤングを感じることができるものにしていただきたかったので、ネット上の写真からある意味粗野でシンプルなデザインの写真を送って、後は待つばかり。

そして出来上がったロッドはまさに私が体感したいと思っていた、想像していたバットが動くアクションに見事に製作されていました。手渡しの場で竿を振らせていただいた際に、グリップの中まで曲がってくるアクションを確認し、胴からぐるりと巻いて竿が円になるかのようにしなるくせに、へなちょこではない確かなバネを感じます。自然素材と手作業のなせる技なので、同じテーパーで作っても違う調子になりかねない竹竿の世界ですが、制作いただいた竿はパラボリック体験をするのには十分な、イメージしたヤングを十分感じることができるものでした。そして仕上がりも全体感も思わず「これこれ！」と指差したくなる竿なのです。

2020年はコロナ騒ぎのせいで海外遠征は諦めざるを得ず、したがって国内の釣りで我慢せざるを得なかったのですが、この竿のおかげでいつも以上に渓流に足を運ぶことになりました。

使い始めた当初はパラボリックのロッドに関してよく耳にするようにショートキャストは心地良いものではないなあと思ったものです。しかしそれは超近距離の話で、うまく釣りをしようとすれば一歩下がって距離を置くのは当然で、そうなってくればこの竿は十分よく働きます。そして東北でヤマメの川に入った際に、この竿の楽しさは増幅されました。少し距離を取ったキャストではこの竿のバネが効き、気持ちよくフライを運びます。

バンブーロッドはきっとどれでもそうですが、気が急いて近距離を叩いて上がっていこうとするとこの竿は全く楽しいものではありません。けれど手に竿を感じて一拍置いて動かせば、ラインの流れを手に伝えつつフライを届けることができるようになってきました。

おそらくこの竿の調子はマンドレルにシートを巻いて焼き上げるブランクではなかなか表現できないような、どうしても手を加える必要のあるヒネリがテーパーにあり、それが独特のバネ、味わい深い調子を創り出していると想像します。

横浜の自宅で是非あそこへ、と思い描いていた秋田の川は増水で釣りが叶わず、逃れて走り回った挙句に着いた川は名も知らない峠道の脇を流れていました。今年いくつも訪れた荒々しいフリーストーンのイワナの川とは違った平坦な感じで、それでいて瀬と淵の連続があり、囁くような水音と河原や川底の石の色のせいか柔らかい明るいオレンジ色に包まれたような場所でした。そんな場所ですから遡行とともに次から次に現れるポケットウォーターへ毛針を落としていく釣りとは違って、十分距離を取り、魚の警戒心を刺激しないように釣りをするのですが、この竿はそんな流れにまさに”ハマる”活躍をしてくれました。

短い竿を連れて歩くと釣りを大げさなものにすることがなく、それが自然素材の竹で出来たものであれば自然あふれる川の雰囲気に馴染み、その竿のテーパーが独特な味わいだけでなく機能として秀逸であれば楽しい時間にならないわけがありません。

蟻の毛針を投じて飛び出してきたヤマメは透き通った水の中を元気よく走り回り、自慢ができる大きさではないながらも、そのハリとツヤはこの川の雰囲気と相まって秋田の渓流釣りを素敵なものにしてくれました。東北の釣り人が羨ましい。そう思わされる時間をこの竿とともに過ごすことができたのです。