97年以降、海外にフライフィッシングを求めて出歩いていました。以降3年ほどは長期の滞在をして、その後それを続けるには仕事をしなければと思い立ち、仕事を得てからは年に一回、10日ほどの釣りを楽しみに、車も持たず、他に趣味も持たず、静かに仕事に専心していました。年に1回のスティールヘッドはあまりに特別で、ダムもない、護岸工事もない、川に降りれば人の爪痕がほぼ見当たらない水辺に酔って、過ごしていました。たまに釣友と国内の渓流に出かけても、それで日本でのフライフィッシングが主軸になることもなく、心はいつも海外に向いていたのです。
2009年に仕事で南半球に出向いた際にニュージーランドに行く機会を得て、トラウトの釣りの面白さを数年ぶりに感じ、いつか腰を入れてやり直してみようとぼんやり思いつつ、同時にやっぱり、竹竿かなあと煙が立った感じです。
2012年頃、スティールヘッドの河で見かける人が100%スペイロッドであることに気がついて、何人もが流れの中で振っている姿を見て、ちょっと滑稽に感じたり。魚が掛かる様子を見て、これはすごい技法だなア、と感嘆しつつ行き過ぎかなア、とも思ったり。その辺りからスティールヘッドの竹竿を考え始めました。
2013年に、そろそろ日本でロードトリップをしたいと思って車を購入したら、なんか自由にいろいろいける気分になり、ずいぶん以前の、学生時代の気持ちを思い出したのです。
子供の頃から横浜に住んでいましたが、釣堀を除いて神奈川県内の渓流で釣りをすることは今までに一度もなかったのですが、竹竿熱と移動が自由にできる気分と、それにも増して日本の渓流がちょっと懐かしくなり、海外の釣りとは別に、小さい毛針を峻烈な水の流れに乗せて、それを目で追っていく先に弾ける水面が見たくなってしまったのです。
インターネットの情報から向かった先は、ユニークな場所で、車止めからはかなり歩かなくては釣りができる川にたどり着けません。山歩きしつつそれも良しとして向かった先は、ちょっと想像を超えていました。水の透明度、新緑の新鮮、林間の爽快。以前長野に住んでいた頃に歩いた渓流よりも素敵に思えてしまいました。残念、護岸や堰堤はやっぱり一つや二つではなく入っているのですが、それでも付き合いではなく、感じて出かけてきた久々の渓流歩きで、はしゃがないではいられない感じです。そんな中、なんと結構なサイズの、7、8寸くらいのが4、5匹釣れてしまって。
今年(2016年)でここに来るようになって4年になりますが、毎度ワクワクしつつ、やっぱりときに振られるのですが、それでも懲りずに出掛けて来るのは、県下に見つけることができた鮮烈な流れに癒されるからに他なりません。車から1時間以上歩いて辿り着くまでに、”仕事”で締め付けられた神経を緩めようとしつつ、オフィスで吹き込まれた”情報”といわれる塵や埃を掃いて掻き出そうとしつつ。1匹でも8寸クラスが釣れれば雀躍してカメラのレンズを向けて。透明な流れに魚を戻した後は、さて次はどんなフライで、どんな風に流れに届けてみようかと楽しい組み立てがすぐに始まります。
流れが透明で、人家のない上流なので、滑りやすかったり歩きにくいと思うことは今までありません。車から川まで歩くのがちょっと大変なだけです。最近はアクティビティ・トラッカーを着けているのですが、ここに来るとカロリー消費は山歩き2時間以上+釣り歩き5、6時間で、通常3000kcal、最高8000kcalでした。
この川はヤマメが主ですが、上流では時々岩魚も顔を出してくれます。どの魚もサイズは手のひらサイズが多いのですが、運の良い日は8寸クラスが数匹出てきてくれます。それでもまあ、十分なワケです。神奈川県内で、お気に入りの竹竿で、この流れの傍で1日過ごせて、数匹の魚に恵まれれば文句ナシ、です。