The REEL

Steelhead Skeena Hardy Marquis Salmon No.3 Sage Spey Rod

スティールヘッド・サーモンにふさわしい旅の“The Reel”とはどんなものだろうか。

ある年ディスクドラッグのリールを使い通してみる。ディスクドラッグがどれだけ有利に働くかという試みである。スティールヘッドで13、14のファイトをし、アラスカのキングと数十のファイトするに、極力ラインを引き出されず、巻き取りも最小限に抑えられる有利を感じる。しかし、はじめから1日20も30も相手にしようと考えるアラスカのサーモンでの有利は納得できたとしても、最小の労力でしとめようとの気はスティールヘッドに対しては起こらない。日に数回あるかないかのチャンスのとき手元にあるべき決めの一手。本当に”1匹”を仕留めようと考えた場合や釣りを本気の遊びにするのはどれだ・・・・

それはクリックのリールじゃないか・・・・シングルアクションでかつバックラッシュしない程度のテンションのみの機能。シンプルな道具ゆえ緊張を生み、アソビに幅が出てくる。ディープな技術を要求してくる。”対等”を演出するなら・・・・やっぱり・・・・

こうして旅の常連になったのは70年代のハーディである。その中でも質実剛健といいたい、多くの兄弟が生まれたマーキスの、その大兄、SalmonNo.3. しかも初期にシルバーフェイスで生まれた純潔種である。

わし掴みにしてなおあまる大容量のボディ、ブラスフットが大物用の面構えを確かなものにしている。塗装は薄く、渋く、現在手に入るものとは現場での磨かれ方まで違って、刻苦をいとわずに使用すれば、年月とともに顔も声も大人になっていく。

6年前、長期の一人旅の前に、偶然イギリスで探し当て、送られてきた。当時はプレミアが少し付いていて200ポンド、約4万円。使用2年目にはキングとスティールのファイトで疲労し、クリックの爪を抑えるビスが飛び、川に入っている最中にハンドルが折れて流れに落ちた・・・・くそったれ!もう2度と旅に連れてけないじゃないか。でも、現在の主流、ディスクのリールは走っている魚が止る以前に道具が止めようとして、性能が釣り人の手に余るかのようである。

走った魚は放っておけば必ず止って向きを変えるが通常である。引っ張る方向と逆に行こうとするのが普通である。であるなら高機能なブレーキは逆効果も生み出すんじゃないか。これを避けるがために弱くして使えばいいのかといえば、トラックの牽引にまで耐えるドラッグであるかもしれないのに、それをわざわざ使わないでいるというのも変な話しである。

マーキスのハンドルが以前故障したとき、それは竿を脇に抱えているときに容赦なく引っ手繰っていった魚のせいであった。また、ラインを巻き取る最中にこれまた容赦なく逆走した強者によって手の平にハンドルを叩き込まれたせいあった。すべて釣り人の未熟から起きたことである。

一時は手元を離れ、頑健な海用のものを連れていたが、第一流の品質に疑いはないとしても、どこか非常に微妙な点において欠ける部分があるように思えてならない。マーキスにはぶつけてリムがへこんでも、プライヤーで起せば回転をはじめる余裕があり、考えようによっては、丈夫な素材で精巧に仕上げられたものの故障よりも、気を使わなくても良い道具になってくる。ちょうどルーズだけれど気の置ける仲間のようになってくる。

今までに何度も引きずり倒されたおかげで、バネはマイルドに、そして爪は丸くなりつつあり、音が次第に和らいできた。分厚いブラスフットが軟弱なリールシートとの設置を拒む。これくらい骨があってちょうどいい。背中の角は磨かれて次第に本性を出しはじめた。昼夜問わず、電車で、トイレで、昼食時、夕食時、カタログとにらめっこして、キンキラなリールに浮気してばかりでは本当の付き合いはできない。

再び、このマーキスとカナダに来た。

ラインを引き出すなり叫びをあげていた6年前と違い、経験を積んだ音がただの道具でない存在を知らせてくる。「なるほど、スティールヘッドを狙って、カナダの川まできたんだナ。」となってくる。

魚がかかれば必要なときにラインを送り出す。そら来たか!という激しい走りにはすれすれのところでついて行く。まずいか!?と思い始めたら、下から手を当てて応援する。えらいラインが出てしまったな、そうなったら大口径を回転させて景色とともにラインを巻き取る。

これが旅のリールである。使わずに置いておかれる道具の寂しいこと。クルクル巻くだけのものに成り下げるなんて、私がしないゾ。