どうしても自分が持っているものを贔屓にしがち、賞賛しがちになるとは思うのです。スティールヘッドの風景の中に連れて歩くことがストーリーを大袈裟にしてしまうのかもしれません。そうわかっていても、もう少し話したくなってしまいます。
フライフィッシングのライターで活躍されている東さんが「The History of Bamboo Fly Rod」で、フライロッドを「空気の世界と水の世界を繋ぐアンテナ」と表現されていましたが、フライロッド/釣竿についてこれ以上の的確な表現はないと思うのです。釣り人は時に釣りのメインツールであるこのアンテナを貪り探します。自分はそのアンテナに強力な電波発生や鋭敏な受信機能を求めることはなくなり、素敵な田舎の風景やフライフィッシングがある自然の中で竹竿に行き着きました。対象がスティールヘッドであろうと、それでなければという感じです。どんなに有利とわかっていてもスペイロッドにはちょっと違う何かを感じはじめてしまったので、仮にベストのバックポケットからペットボトルが出てきても、徹底ぶりに甘さがあるのは承知しているのですが、手に握って受信せんがためのアンテナはナチュラルマテリアル、竹製が安心です。使えば使うほど、当初思っていた「大きな魚が竹竿でうまくファイトして取りこめるのか」という不安も霞んできて、今はほとんどなくなりました。それはこの竿、Sweetgrassの8’#8のおかげかもしれません。
この竿は癖がない、自分にとって相性がいい、使ったその日から友達になれる使い心地、と言えるかもしれません。スティールヘッドを始めて15年間に考えたことをお願いして、それを形にしてくれたビルダーがいたのは幸運でした。以下どれもが趣味の時間をふんだんに使って考えた末にお願いしたことなのです。
*#8クラスではかなり短めであること
*フルウェルズグリップで、太めであること
*ホロービルド
*六角
*2ピース
*5インチファイティングバット
*明るめの竹肌
*マスタークラフツマンが率いる製作工房で作られた
*ヨーダクラスのビルダーが背後にいる
*スティールヘッドを知る人物がデザインしている
どれもが「ああ」「なるほど」「だから」と関連しあって、この竿の空気を作っています。
ですが、それだから納得して使えて楽しいとなっただけでなく、対流の納得感もあります。つまり実際に使ってみて、手の中にある竿を見て「これはこれは」「どうしてこう感じるのか」と考え始めると、浮かんでくるのが上に列記したことにもなるのです。
この竿を握って川岸を連れて歩いているとき、それはちょっとした温かみのある時間です。異界と交信するアンテナを手の中に転がしつつ、端正な魚が泳ぐ流れを歩きます。このアンテナの素材は電気を通すようなものだったり放つようなものではなく、オーガニックなものなので、感度は鈍いかもしれないけれど感性は豊かで、一度つながればより深くなりうるものです。