スマグラーとサンビーム

7ピースのパックロッドのスマグラー。メノウのラインガードが特徴のサンビーム。ともにハーディ製で1980年代初頭の道具ですが、”お気に入りのモノ”として、この二つは長い間所有していました。ですが正直5、6番のアウトフィットは本州のイワナ、ヤマメで使うことはなく、長い間仕舞われているきりでした。ところが近年、にわかに登場回数が増して、すっかり使う悦びに浸っています。

フライフィッシングを始めたのは中学生の時ですが、本格的に始めたのは大学生の時でした。フライキャスティングの基礎を教わった時、ハーディのスクールに協力している人からフライロッドのさまざまを教わりました。当然周りにはハーディの道具が溢れていて、技術や道具の基準になったのはハーディでした。セージやオービスに触れる機会もありましたが、それらが標準になることはありませんでした。それはハーディが持っていたアクション、コンセプト、デザイン、歴史、そして雰囲気が特別だったからに他なりません。

 

ハーディは世界で初めてグラファイトのロッドを製作したメーカーです。同社で名竿と呼ばれるバンブーロッドのアクションを意識したり、アメリカの市場を意識したり、いろいろな試みをグラファイトロッドの黎明期からやっていたと思います。

力強い、スローなループを叩き出すハーディのロッドのアクションが好きでした。ロングキャストよりもループコントロールを楽しむような、ハイスピードラインよりもエイトフィギュアループで、目の高さをゆっくり飛行していくような、そんなキャスティングロッドのイメージです。まさにトラウトロッドの理想をここに描いていました。

ですが、日本の関東甲信越の渓流ではどんなグラファイトロッドを使ってもオーバーパワーに感じます。結局イワナやヤマメには竹竿がその回答となって、今では短めの竹竿以外は使いません。(そしてそれはハーディの竹竿の得意とするカテゴリではありませんでした。)

その後スティールヘッドの世界に浸っていくに従い、ハーディではないロッドが主力になってゆきました。90年代後半に北米でスペイブームが始まり、フライラインの進化がすすみます。ハーディはそのブームに乗らなかった、あるいは伝統を重視していた感じでした。

そうして時が経つにつれて、以前キャスティングの練習や釣りに使っていたハーディのグラファイトロッドは手放してゆくことになりました。その中で、唯一残ったのがグラファイト・スマグラーでした。ただ、本州では使う場所がありません。長い間、仕舞われ続けていたのです。

 

ある時、もう10年以上も前になりますが、仕事でオーストラリアに出張した際に、せっかくだからと足を伸ばしてニュージーランドに釣りに出かけました。スマグラーはその旅にピタリ、納まりました。そしてNZで初めて鱒釣り体験をし、この竿はこういう釣りのためのものだったのかと納得しました。

そして近年、北海道で砂防ダムの撤去/スリット化を進める活動に携わるようになって、道内のアメマスやニジマス、30cm以上の魚を相手にしようとする時、いよいよスマグラーの出番が巡り、主力となってきたワケです。

 

スマグラーは、その密猟者というネーミング、ホワイトインクによる手書きのネーム入れ、シャフトにメーカーロゴのゴールドラベル、リングのフックキーパー、小振りのグリップに筋の入ったワインディングチェックなど、往年のフライロッドのディテールが満載です。シャフトは太くなく、むしろ細めで、もともと肉厚なブランクの上に印籠継の7ピースのせいでソリッド感が増し、まさに竹竿の味わいを感じる!?アクションです。ロッドに入力すると竿がボンとかえっていくポイントがあり、フライキャスティングを覚えるのにこの感触はありがたかったものです。6番指定のロッドですが、5番ラインでも快適で、むしろ現代のラインでは5番に落とすのが正解に感じます。

 

北海道の鱒たちに使うフライは大型で、8番フックを標準に使います。それ以上を使う釣り人も多いようで、現場で会うエサ釣り師やルアー釣り師は、フライはでかけりゃでかいほどいい、なんてアドバイスをくれます。フックサイズだけで語れないところがあり、はっきりとした存在感のシルエットが魚を誘うカギになる、そんなフライを使うために、4番ラインではフライを思ったように運べません。魚の大きさだけでなく、使うフライのサイズを考えても5番以上が楽しい釣りです。もし湖や本流にも出ることを考えると、6番が最も汎用性があるように思います。フライフィッシングを本格的に始めた頃の、フライキャスティングを覚えたあの番手のあの竿たちがまさに生きるフィールドが北海道にありました。

初代サンビームは、パーフェクトより一段アフォーダブルなリールとして1924年に登場したようです。コレクターアイテムとなっている初代には縁がありませんが、1970年代終盤に登場した第二世代?に当たるものは今まで4機使っています。このリールは70年代後半から80年代初頭の数年間に製造され、短命に終わりました。

この第二世代もやはり同じような位置付けで、ライトウェイトやマーキスの一段上、パーフェクトの一段下で発売されました。フェイスも背面も少しエッジの効いたデザインに目を惹き着けられます。メノウのラインガードが他と一線を画します。背面センターにあるレギュレーターダイアルの操作性は良好で、当時としては先進の機構だったと思います。(同じ仕様は後年のJLHリールにも使われました。)けれど4番ラインに適合する大きさは元々存在せず、5/6以上のサイズになっています。そのため現場に出ることなく、長年引き出しの中に仕舞われていました。このサンビームが今、スマグラーとともに北海道で大活躍しています。

モダンともクラシックとも言えない中途半端なデザインのせいか、まず使っている人を見かけることもなく、人に気にされることもないのかもしれません。自分にとっての隠れた名作。ずっと仕舞われていただけのこのリールが水辺に連れ出されて、立派な鱒にラインを引き出される時間を過ごすことになるなんて、全く想像していませんでした。


今後も北海道のダム撤去推進の活動とともに、スマグラーもサンビームは毎度連れ添ってくれることと思います。約50年前の道具たちですが、フライフィッシングは元々素朴、シンプルな釣りです。そんな時代の道具を普通に使えることが、この釣りの要諦でもあったりしませんか?