以前から気になっていたのになかなかできずにいたのがソルトウォーターのフライフィッシングです。海外に出ようとすれば自分にはアフォーダブルな釣りではなくなってしまうし、かといってDIYでなんとかできるほど甘くはないと想像が先行していて、やっても中途半端な感じでした。今まで沖縄本島、竹富島、宮古島、モルジブやフィリピンなど、スクーバダイビングのついでに竿を連れていって、たまに岩場の魚が遊んでくれる程度の、ついでの楽しみでした。けれどその分スティールヘッドには存分に投資してきたワケです。
ところが今年ついに、友人から奄美大島のフライフィッシングに声をかけてもらい、覚えず乗ってしまいました。なんとなく、ひょっとして、自分が楽しめるフライフィッシングがありそうな気配に誘われた感じでした。そして、日常でのモバイルやPCとのにらめっこから離れる必要はやっぱりあって、リラックスした時間を過ごせそうな、気楽な、ゆるい関係の中で誘われたからかもしれません。ちょっとした遠征だとついつい釣果を買ったかのように思うこともあるかもしれませんが、それは散々スティールヘッドで痛い目を見ているので、ここ10年は行くと決めたらその時間をとにかく「くつろぐ」ことにしています。もちろん、釣りもたくさんしますが!
奄美大島を訪れたのは18年ぶりくらいで、綺麗な海でのスノーケリングのために2回ほど旅行したことがありました。その奄美は良い意味で良い田舎が今でも残っていて、街の中でもけばけばしい建物はごく少数。潮でヤレてきている家々はよくある風景ながら、ここでは手入れが行き届いている感じです。聞けば地元の人たちはとても綺麗好きで、自分の家や周辺をケアしている様子。道路脇などでもプラスチックのゴミ類が見当たることは他より少ない印象です。さすがに海辺の漂着物の多さは避けようがないようで、時に釣り場にアクセスするときにはゴミの吹き溜まりを踏みながら進まざるをえませんが、その向こうには綺麗な海原が広がっています。久しぶりの奄美大島のこういった面を見て、ちょっと驚くのと同時にとても魅力的に思えてしまいました。リタイア後に住むならこういうところもいいんじゃないか、なんて想像してしまうほど、いい空気が流れていたように思います。同行の友が晴れ男らしく、梅雨時にもかかわらず滞在4日間、全てドカッ晴れだったせいもあるかもしれません。
想像通り、海のフライフィッシングは簡単とは言いがたく、釣果はわずか1つでした。けれど魚は本当に沢山いたのです。ガイドの安田さん(Far East Heaven)の目は影を逃さず、素人の私がポイントされても見えずにいるというのに次々に発見、案内してくれます。奄美の田舎を縫って毎日変化に富んだ海辺を案内をしてくれて、随分多くの魚に遭遇しました。クロダイ始め各種トレバリーは目の前に現れるたびに釣師のマインドを刺激してくれますし、充分届く範囲に来て驚嘆したりそわそわしたり。そんな中で自分の釣りの腕が至らないことにありありと気づかされて、新しい刺激を釣れない時間の中に楽しむことができました。
それにしても。
クロダイのフライフィッシングは想像したものとは違ってとても繊細でした。イメージにあった豪快、あるいは大雑把なソルトウォーターの釣りとは違った、全編テクニカルで、繊細なアプローチが優先される上にタフな海上のコンディションでそれを達成しないといけないし、選ぶフライは雑誌で読んだり見たりしたものとは違って、地形や水の動きに応じたものを選び、魚を驚かせないプレゼンテーションを達成しなきゃいけない上に魚に好まれる色、大きさ、形でなければいけないのです。そしてやっと魚を誘うことができても、今度はちゃんと食べてもらうように操作できなければダメな上に、かじってくれてもそれを針掛りさせるのにこれまた心と体の両方の技術が要求され、丸3日釣りをする間にそれが達成されることはほとんどありませんでした。ガイドの安田さんにどんなにいいアドバイスをもらっていても過去何十年のやり方に体が反応してしまってXXXX!な始末。本当に魚には沢山遭遇しましたし、アプローチもしたんですが、道具選びから、投げること、プレゼンテーション、操作、フックセット、最後に獲物を手に入れるまで全くもってダメさ加減を知らされました。
それでも。
クロダイが砂地を掘ったり岩場の隙間に頭を突っ込んだりして、水面に尾っぽを震わせるテイリングを見て、静かにしつつもはしゃがずにいられませんでした。そして自宅に帰った今、次回のために頭の中を楽しい回想、妄想、着想がぐるぐる回り始めるわけです。あえて、過去の釣りに近いものがあったとすれば、ひょっとしてNZのトラウト釣りかもしれない!?どうしても海の、風の中の、重めのフライで、などと考えると軽い方に行けませんでしたが、未だに頭の中に映し出されるクロダイのテイリングは5−10mくらいのことも多く、15m以内ならもっと多く、フライは軽くして、静かに着水させる方が良いのかもしれません。
ようやく釣らせてもらった魚は体に張りがあって海の香りが立ち、活きの良い輝きを放っていました。ガイドフィッシング、奄美の海や田舎の風景をリラックスして楽しみ、ほんの一匹、幸運にも魚に触れることができて、あの時間がすでに懐かしいのです。