初心者から抜け出して

夜中2時。これから東名を飛ばして浜名湖に向かいます。今年6、7回目のチャレンジです。ドライブ3時間半は結構コタエます。日帰りではなおさらです。名古屋方面の釣り人が羨ましい。現地についてカヤックを組み立てます。これが馬鹿にならない労働で、ひとしきり汗をかきます。でも、そんな事は振り払ってでも、あの、いるのがわかってるのになかなか食わないクロダイに向かってしまいます。フライフィッシングでは一番燃える状況、いるのに釣れない。釣りは自然相手ですから思ったように事が運ばないのは何もこれに限ったことではないのですが、それにしてもあからさまにいるのがわかっていて食い気がある素振りはそこかしこに見られるのに、釣れない。技術が至らない釣り人を直射してくる浜名湖のクロダイ達に完全にハメられました。

 

 

今期集中して取り組み、今まで思っていたあれこれを一気に試してみました。初心者から一歩抜け出た後の、その思うところを書いておきたいと思います。おそらくフライフィッシングに狂った多くの人が同じように辿るのではないかと想像する過程なので、すでにこの釣り20年の人はとうの昔に経験していることと思います。でも、この苦悩の過程、結構楽しみなんです。ネット上の経験深い釣り人の情報をみて、やっぱりと思うところもあり、なるほどと気付かされることもあります。が、ガイドなしで自分でフラットに立ってやっている分、遠回りは仕方がないのですが、少しずつ魚、道具、状況、場所などの各要素の理解が前進している手応えを噛み締めています。この手応え、何者にも変え難い。不便益の一つです。

浜名湖 クロダイ フライフィッシング アイランダー フライリール スコット セクター

<ロッド>

7番ロッドはこの釣りで一番バランスが良さそうです。投げるフライを考えると応用範囲があって、なおかつ魚が掛かった時の釣り味の点でも十分です。

6番はもちろん面白いと思います。釣り味ではこちらがより対等感がありそうで、風が弱め、フライが軽めなら6番は有利です。仮に風があっても、いつもの重さのフライでもやれないことはないでしょうし、色々道具を持てるなら6番は楽しい選択になります。

もし手持ちに8番があればそれも選択肢です。使い慣れているロッドであればプレゼンテーションでもこれでダメなことは全くないはず。魚に対してオーバーパワー気味なだけで、風などの環境を考えると有利になることもある。

ですが魚の大きさ、釣り味、使うフライ、使えるラインの種類の豊富さ、キャストの距離、風吹く環境など考えて現在7番で腹落ちしています。さらには東京湾のボートシーバスもやって浜名湖のクロダイもやることを考えると大枚叩いて買ったスコット・セクターの7番は正解でした。

 

<フライライン>

7番のロッドに6番ラインをつけていた当初はこれで納得していました。投げて散らした魚は数知れず、とにかく水面へのインパクトを抑えないと話にならないと考えた選択。もしプレゼンでうまく行ってなければこれは一考です。ですが、もう少し距離を投げたいことが増えてきて7番のラインを選んだところ、願いは叶った感じです。キャストも慣れてきて、リーダーを工夫したことでインパクトを抑えたプレゼンが出来つつあるのも良かった。ラインは投資する価値が大いにあります。良い釣りをしたいのであればネット上のガイドさんがお勧めするラインにはワケがあり、良さがあります。短いラインで荷重がロッドに掛かり始めるテーパーのソルト用ラインは、そのために設計されただけあってトラディショナルなウェイトフォワードとは確実に違います。自分はエアフロのフラッツユニバーサルのテーパーが気に入って、そのクリアティップバージョンを試し、今まで以上に納得感のある釣り時間になりました。フローティングのクリアティップはリールに巻かれていると白っぽいのに水に浸かると透明になります。そしてその部分は水中に影を落とさない。10フィートのクリアティップに15-18フィートのリーダーを付けてダメなら諦めるしかない。警戒心MAXの魚達にこちらができるMAXのセットアップのために、重要なピースになりました。

 

<リーダー>

ラインの延長であるこの部分はもちろん超重要で、ラインを生かすも殺すもここです。少し太めの方がラインと一体になりやすく、キャストコントロールがしやすくなるという当たり前のことにようやく気がつきました。当初2Xティペットで十分な魚なので、それに準ずるリーダーを使いました。ですがターンオーバーがイマイチ。ソフトに届けたい、でもダンベルアイのフライをターンさせたい。そのためにはリーダーは思い切って太めに行くに至りました。12ポンドのレコードマスターよりも16、あるいは20ポンドの方が快適です。そこに1Xのフロロティペットを付けて狙いが定まりました。

快適なキャストのためにはリーダー+ティペットは短いに越したことはありません。ですがもし釣れない時間が長いなと思ったら、少し長くしてみるのも手です(最長は20フィート)。実際にフライを交換しているうちに短くなるティペットがネガティブ要因になっていることもあります。今一度長くするとフライの沈み方、動き方が変わったのか、反応が出始めたりすることがありました。ですが自分の技術以上に長いリーダー+ティペットはキャストを酷いものにしてしまう。ですのでクリアティップのフライラインの助けを借りてリーダーを長過ぎないようにしてみたワケです。

 <プレゼンテーション>

驚かさずにフライを届けるわけですが、そのためによりスムーズにフライをターンさせるには前述のようにラインとリーダーが適切に組み合わされている必要があります。そして最も重要なのはフライを魚の視界に入れられるようにフライを届けることです。つまり、いきなり魚のそばに落としても、魚の向こうに落としてリトリーブで視界に入る位置に持ってきても、あるいは魚が泳いでくる場所に置いてもいいワケです。驚かせていなければ。視界に入ったと思われるときにどう動かすかはその時次第。ですが動かし続けつつ、なおかつ長く見せる方がいいように思います。すぐに視界の外に出て行きそうな鋭い動きよりはじっくり見せるほうがバイトする確率が高いような気がしています。魚の活性次第なんでしょうけれど。視界に入れるためにフライを誘導するときのリトリーブには特に何か留意点はないように思いますが、驚かさないで視界に入れて、フライを動かしつつ、見せていく。そんな感じです。それでワークしないのなら今度はフライの変更です。

 

<フライ>

そんなに種類が必要とは思いませんが、いくつかのパターンを持っていると楽しいですし、ローテーションが助けになる時がありました。シルエットの種類だけでなく、色だったり、ダンベルアイの重さだったり。3つのシルエットで各3色、重さ2種類を揃えるとまあまあのバリエーションです。

釣り人が動かずに待っていると、あそこにも、ここにも、そこにも魚がいることがあり、取り囲まれたようになって一歩も動かずに時間が過ぎていきます。一通り打って、何回も打ったあとに反応がないとき、色を変えて急に食ってきたり、違うシルエットに反応したり。周囲を観察すれば、テーリングしているのもいれば藻の上でモサモサ何かしているのもいたり、あるいはそこから小魚かエビなんかが逃げ飛び出したのか、それに襲いかかるそぶりがあったり。ふと足元を見るとハゼがいたり、カニがいたり、ヤドカリがコソコソ動いていたり。それら生物の色も様々、水底の色に近かったり、でもなぜかどこかの部位は色がついていたり、あるいはマダラだったり。そのどれもがヒントになり、おそらくそれらどれもクロダイが口にしそうです。この釣りを始めてしばらくは通り一辺倒、一種でやっていたのですが、こうした観察から繰り出したフライにも反応があり、やっぱりフライフィッシングの基本である食べているものにフライを合わせていく楽しみは十分ありそうです。海のフライを創造する世界が広がってきました。

フックは結構悩みどころ。管付きチヌを使っていましたが、フォグショットというフックを手に入れる機会があり、試して良好だったので、以降メインはこのフックです。細軸シャープなフックでヒネリも入っていない。使うのはいつも一番大きいサイズ2。(クロダイにはこれでいいですが、これ以上大きい魚、例えばトレバリーやモンガラ類にはフォグショットは細すぎ弱すぎだと思います。)

アイは当初チェーンボールアイを使っていましたが、アドバイスもあり、0.4〜0.5gのブラスのものを基準にしています。アイは形や色よりも重さが思いのほか重要です。プレゼンテーションの鍵になる要素の一つで、投げて重すぎず、落ちて水にうまく馴んで着底し、動かして水中で硬すぎない。まずはこれという重さを発見するのに4年かかってしまいました。色は好みやフライに合わせて選べば良いのだと思います。

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<リトリーブ>

いまだに多くの迷いの中にいます。いまだに正解を得ていません。7回目の釣行では約1時間、ベタ凪に近い水面でテーリングに取り囲まれることが起こりました。結果はゼロです。あまりに美味しい状況だからか、心理的に舞い上がって理性を欠いていたのかもしれません。ですが今まで釣れた方法、フライ、プレゼンテーション、リトリーブ、そのことごとくが通用しないのです。経験長い釣り人に聞いてもこういうことはあるようで、その時魚が何を食べているのかわからないと。テーリングは止み、場所を移してその後数匹を得たのですが、夢のような状況でも場所を移す勇気が必要なようです。あるいはそこにどっぷりハマって至らぬ自分と対面し続けるか。

色々やってみた中で、とにかく困ったら、ゆっくりゆっくりズル引きのリトリーブです。ロングストロークでインターバルを入れないように、ゆっくりと。これで釣れなければ諦める。実はフライは水中で思ったより早く動いていたりします。そうならないように。特に魚の視界に入ったと思われる位置からはゆっくりと。こうすることで魚を驚かすことは少ないと思います。キビキビした動きやちょんちょん引きでは成果が出ていません。ですがプレゼンテーション後に着底させ、魚に気づかせるために強く2回ショートストリップを入れることは案外効いている可能性があります。実際に今までよりは当たりが多くなった気がしました。ただその後食わせる、フッキングするというのは別の話です。こうやって魚にフライを気がつかせるよりも、正確に投げ入れることができれば気付きますし、その方がしっかり食ってくる確率はより高いと思います。やはり視界に入る、入れることができるプレゼンテーションが最重要で、そうして慌てず、じっくり動かし続けるリトリーブが一つの方法だと思います。

 

<ポジション>

風上に立ち、川上に立つ。キャストの技術を考えれば風上に立つのは必須で、あるいは左投げの自分であれば右から風が吹くポジションに立つのは第一の条件です。その上で潮の流れを読みます。浜名湖ではそのポジション採りができるところがたくさんあります。

潮が動いている時と止まっている時ではアプローチが違います。動いているときは、それこそ川の流れのようにラインもながされ、引っ張られます。こういう時一番いいリトリーブは流れに真っ直ぐ逆らう逆引きです。対して純引きは厳しい。釣れたことはありますが、その際は藻の生えていない場所に魚を発見し、ちょっと意識してリトリーブを早めにしました。これはラッキーだっただけのような気がします。色々やってみる中でベストが逆引きですが、そこから90度までは流れを読んでプレゼンテーションしてゆけば勝負になります。

潮止まりはシーバスでは絶望的ですが、浜名湖のクロダイでは違いそうです。干潮前後で潮が止まりはじめると、浅瀬が広がり、ナーバスウォーターも発見しやすく、テーリングも発見しやすい。しかも潮の流れがとても弱くなっているので、全方向キャストしてリトリーブしてもフライはいい感じで泳ぎます。フラットのフライフィッシャーには最高の時間。あとは風向きで無理せずにポジションを取り、そして肝はフライを視界に入れられるか、です。魚のいるであろう場所を起点に、キャストとリトリーブの方向、風と潮の方向を考えて、なるべく有利にプレゼンテーションできる位置に立つ。一通り釣りをして魚の気配が薄くなれば、次にいそうな場所へ有利な起点を移動させていく。最初動き回ってしまいましたが、段々分かってきました。有利なポジションがわかるようになると、移動距離は少なく、効率的になってきたと思います。

 

<フッキング&ファイト>

フッキングは慌てない、とにかく真っ直ぐになっているロッドとラインでストリップする手の中にアタリを感じたらそのままゆっくりストリップを続け、重さが乗り続けたらいよいよロッドを横に倒しつつグッと掛けます。魚が横に向いて走り始めてくれるのならより確実で、その方がいいところに掛かるはず。ピシッというのはいただけません。まず外れやすいのはしっかり重さを乗せたフッキングでないときです。リトリーブで重さが乗ってないやつはまず掛かりません。リトリーブで強く引いて合わせる技もあるようですが、今の所これで掛かったことはないです。しっかり重さが乗ったらゆっくり横方向に竿を傾けつつギューと重さを乗せて竿の根元でしっかり掛けます。その後すぐ外れることもありますが、それは掛かり所が悪かったと諦めるしかないようです。

以前書いたようにクロダイのファイトに驚かされることは今のところありません。ソルトなのでついついリールファイトをイメージしたいし、そうしてしまいがちですが、そうしない方がきっとバラす確率は減ります。シーバスでもリールファイトしようとするとガイドはしない方がいいの一点張り。走らない魚なのでもっともだと思います。クロダイも同様です。ストリップしてラインを回収し、強く引かれればラインをリリースしてゆくのが一番だと思います。外れるときは何をしようと外れるものですし、大体ファイトの初期か最後の詰めで竿を立てて取り込もうとする時でした。

  

日差しを遮るものが何もないフラットをゆるりゆるり移動して魚を探し続ける。見つけても、良いところに届けたと思っても、なかなか振り向かない魚達に向かってキャストを繰り返す。淡水の釣りにはないシビアさの中でプレゼンテーションに細心の注意を払う。何度も何度もラインを引いてフライを操作するうちに、ラインを掛けた指に溝がはいって、次第に血が滲む。掛ける指を変えて同じく鮮血し、塩水が染みる。3本目の指に変えて、そこも同じく赤切れになる。そんなことになっても水面にチラつくクロダイの尻尾を前に、現場から離れることができず、気がつくとコルクのグリップはピンク色に染まっている。こんなことがあって以来、バンドエイドだけでなくテーピングも用意するようになりました。こうしてクロダイのフラットの釣りを覚えてきました。

 

コロナ禍とスティールヘッドの遡上の深刻な減退から、SkeenaWildという環境団体を応援しつつ、釣りは国内に向かわざるを得なくなりました。最初お茶を濁す程度に考えていた大都会のシーバスでソルトウォーターフライフィッシングの、今までやってきたこととは違う世界にハマることになり、足を伸ばして浜名湖でフラットフィッシングを体験して益々の違いに新しい世界を覗き込むことになりました。元々釣りのセンスが高いわけでもなく、もちろんプロではないので、少しづつその世界が開けてゆくのですが、行くたびに思うようにいかない、つまり知らない世界を味わうことになりました。

 

海には自由に泳ぎ回る野生の魚の世界が広がっています。ここもまた貴重な自然界。フライフィッシングを通じて、守ってゆかなければいけないと思っています。