旅はその準備に妙味があり、現場に足を運ぶ以前に、釣人はこれ以上ない理想を思い描きます。このときがもっとも夢が叶う時間かもしれません。ここではそんな夢に若干の現実を提供し、夢の実現に近づけるような話をしたいと思います。
町の情報や周辺の交通などはさておき、とにかく釣師は水と魚と、それらに立ち向かう道具がどうあるべきかに心が向かいます。魚に関しては当サイト内にいくつもの情報を散らしているので、それらを参照いただくとして、ここでは川と道具の話をまとめてみることにします。
スキーナはBC州のマネジメントユニットの一角を担う1本の偉大な流れであり、名だたるワールドクラスのスティールヘッドリバーを束ねる本流です。私の滞在の中心になるHazeltonより上流にはSustut、Babine、Kispiox、Bulkley、Moriceを抱き、Hazeltonから下流ではTerrace周辺にZymoetz、Gitnadoixを筆頭にスティールヘッドが伝い帰ってくる川が左右の谷に無数に入り組んでいます。
本流であるスキーナは、トラベルアングラーのみならず、サーモン志向のミートフィッシャーマンである地元の釣人の社交場になっているところも多く、8、9月のサーモンフィッシングのシーズンは折りたたみチェアを川岸に持ち込んで、のんびり釣りをする人も見かけるし、数メートルおきにそういう釣り人が立ちが並ぶ場所もでてきます。
9月はコーホとスティールヘッドのシーズンが重なることもあって、場所取り合戦になるときもありますが、水温のせいか川全体の活性は10月より上回っているように思えます。スティールヘッドも単独行動のものよりスクールで川に入ってきている様子がうかがえます。10月になるとコーホのシーズンが終わるため、サーモンの釣人はグンと減ります。スティールヘッド専攻の釣友Wallyは9月は様子見、10月本格始動でした。
ヘーゼルトン上流のスティールヘッドリバーはそれぞれに個性的で、そこより下流のスキーナ本流ではその各個性に会う可能性があります。
「この魚はBulkley行きだな」やや小ぶりのスティールヘッドを水に戻します。
「このChunkyなのはKispioxに違いない」体高あるオスとの格闘後、写真に収めます。
「これはBabine行きのオスだ、見事な大きさだ」1回り2回りの大きさで均整取れた体格に感嘆します。
世界指折りのスティールヘッドリバーの魚が全てスキーナを通って遡上してゆくことを考えて流れの中を想像すると、釣師なら興奮しないわけがありません。これはスキーナ本流で許される現実であり夢です。
初めてスキーナに出かけるとき、案内人に「湖みたいだぞ」といわれました。釣れないときはいつも流れは遠く、長く、どこを釣ればいいのか見失います。一度味をしめると、どこでも魚がいそう、どこでも釣れそうなんじゃないかと、これまた見失います。でも結局は日本でもカナダでも同じです。釣れるところには変化があるものです。その変化がカナダサイズであるから見えにくいのです。
はっきりとした瀬がランの前後にある。水中に駆け上がりがある。障害物がある。流れ込みがある。水が寄っている。流れがよじれている。流速に変化がある。そういうところがやっぱり魚が留まるところになります。
また、釣れないところ、釣り人が集まらないところはその逆で変化に乏しい。流れがただ単に遡上の通り道にしかなっていない。
自然科学を楽しんで見極めてみると、遊びに幅が出てきます。川の規模がそれなりに大きいから、視点も大きくランドスケープを取って、変化があることを見極められれば、広大なスキーナの流れの中に自分の釣場の発見がきっとあるはずです。
初めて行くのであれば、断然スペイロッドがいいでしょう。これはもう確立の問題であって、知らない国、知らない川、初めての魚であれば、ことスキーナのスティールヘッドに関してはスペイロッドが最大の助けになるはずです。全般オープンウォータなのでキスピオクスのように背後の障害物を気にする必要はありません。ですのでシングルハンドでも十分楽しめるですが、スペイフィッシングを知っておくと、投げる距離による釣りのカバレッジの差、シンクティックによる現場対応力、前後にラインを振らないことによるラインやフライのトラブルの少なさなど、シングルハンドと比較にならない有利が目白押しなのです。とにかく、もっとも確立の上がる方法として、スペイを筆頭に考えたほうがいいでしょう。
スキーナは大河川よろしく、よく風が吹きます。無風なら25m前後キャストができても、必ず旅の期間中に1,2回は吹く強風の中では10m-15mにならざるをえないこともあります。シングルハンドではほとんど釣りを諦めたくなるような強風です。そんな中である程度は投げられるとなると私のような未熟な釣人はスペイロッドに頼らざるを得ないのです。10mであればロッドの長さを加えて何とか釣りの距離は保てていると思いたいところです。
水が広がっているスキーナではそれなりにウェーディングもします。もちろん膝くらいまで水に入って快適に行きたいのですが、場合により腰まで入ることもあります。そうなると長いスペイロッドは釣の範囲、キャストの距離を何とか稼げるものです。
でも、何よりもスペイスタイルを薦める理由は、ラインシステムのフレキシビリティが非常に高いことです。日本からの釣旅人にとってラインのフレキシビリティは何にもまして重要です。
さまざまな本に書かれるコメントは結局はかなりの経験者の達するところであることが多いと思います。そんなコメントの中には、「ウェイテッドフライやヘビーシンクで底を掻っさらう釣りはいただけない」などと書かれ、「テクニックでフライの泳層をコントロールするのがフライフィッシング。底引きは魚を驚かせることのほうが多い」と書かれます。確かにこれらは事実でもありますし、底を狙う釣り人が前に入っていると魚がスレ易い感じを受けます。
一方で、定位し始める魚は水の底のほう付きがちだし、誘う距離も少なくすむようにしたほうが掛かる確率が上がるはずです。
2005年の釣り、スティールヘッドの旅8回目でスペイのシンクティップシステムが最強であることを再認識させられました。
まず遡上魚の釣りで、しかも1、2週間の旅行で、そんなに活性が高い場面に巡り合うことは少ないでしょう。そうであれば少しでも魚が警戒心を少なくしてフライを追うようにするとなると、やっぱりフライは水の下にくぐらせておくのが基本になると思います。誘い優先の技巧的な釣りは次のレベルとして、まずはいかにフライを魚に近づけるかを考えたほうがいいでしょう。確立を上げようとすれば、まず間違いなくフローティングライン+シンクティップの出番が一番多くなります。根掛りせず、なるべく底近くを流れるティップを組み合わせてフローティング+シンクティップの現場適応力をフルに使ってみること。これでグッとスティールヘッドに近づけると思います。
また、スキーナ本流には次のレベルが楽しめる流れがきっと見つかります。スティールヘッドはもともとアンクルディープな流れ、くるぶしくらいの深さを泳いでいることも多く、もし遠浅の、表面はフラットだけれど比較的水が動いているグリースラインウォータに出会ったら、あるいは前後がプールになる長い瀬に出会ったら、こういうところはフローティングラインでドライフライのスケーティングやウェットフライのグリーストラインメソッドが生きる場所です。私はそこでバンブーロッドのシングルハンドを使うようになりました。スペイにシンクティップをセットすると、間違いなく有利で効率的なのですが、それは魚がとにかく欲しいという状態で、もう1つ向こうにある楽しむということがことがお座なりになってしまっているように思い始めました。100%スティールヘッドを楽しもうとするのであれば、他にも方法があるものです。それは根掛りを全く気にしなくていい、魚を水面に誘い出す時間で、水面に姿を表して自分のお気に入りのフライを捉える様子を目視し、その後始まる戦いはシングルハンドならではのダイレクト溢れるものです。スペイだけでない、クラシカルなアプローチも楽しめる場所がスキーナにはきっと見つかります。ぜひお試しを。